一昔前、FA機器のタッチパネルと言えば、黒い背景に白い文字が並び、スイッチも味気ない長方形の中に機能名称が書かれている。そんな非常にシンプルなものが主流だった。
しかし近年のタッチパネルは画面解像度や処理能力が向上し、多彩な表現が可能になった。
機能名称を読まなくても図やイラストで状態を把握できたり、設備の稼働状況をアニメーションで表現できたりする。使用者にとって分かりやすい画面を構築しやすくなったことは間違いない。
その一方で、新たな課題も生まれた。
設備設計者は、
「どこまで作り込むべきなのか」
を悩み、
設備仕様を決める側は、
「どこまで要求すべきなのか」
を悩むようになった。
自由度が高くなったことで、むしろ難しくなったのである。
■若い頃の大失敗
2000年代初頭、私が制御設計者として駆け出しだった頃の話だ。
当時はまだ若く、今より時間的な余裕もあった。
ある設備案件で、客先から標準構成のタッチパネル画面データが支給されていた。先輩社員はそれに準じて基本画面を作成していたが、その後の機能追加部分を私が担当することになった。
しかし私は、その画面が客先標準であることを知らなかった。
いや、仮に知っていたとしても結果は同じだったかもしれない。
当時の私は、
「せっかくならもっと見やすくしたい」
「もっと分かりやすくしたい」
そんな気持ちでいっぱいだった。
■とにかく作り込んだ
追加画面は好き放題作った。
背景は黒だと寂しいのでベージュにした。
長方形のスイッチは味気ないので、ヘアライン入りのアルミ調デザインに変えた。
文字も無機質なゴシック体ではなく、それらしい装飾フォントを使った。
さらに設備状態を分かりやすくしようとして、さまざまな演出を加えた。
コンベアが動いている時は図形を点滅させ、あたかもベルトが流れているようなアニメーションを作った。
設備の奥にあって見えないセンサーについては、3D風のイラストをフリーハンドで描き、その上でセンサーを赤色で点滅させた。
今思えばかなり凝っていた。
そして正直なところ、作っていて楽しかった。
ガチャガチャと動く画面を見るのも楽しかったし、それを自分で作り出していることに大きな面白さを感じていた。
■違和感
異変を感じたのは、一通り完成して他の画面に移動した時だった。
元々先輩が作成していた画面と、自分が作った画面があまりにも違う。
まるで別の設備のようだった。
そこで私は考えた。
「なら全部統一すればいい。」
そうして既存画面まで含め、ほぼ全てを自分流のデザインへ描き直してしまった。
当時の私は本気で、
「これまでより丁寧で見やすくなった」
と思っていた。
若さゆえの自信だったのだろう。
■評価は散々だった
しかし完成後の評価は厳しいものだった。
代表的な指摘は次のような内容である。
今ならどれも理解できる。
当時の私は「親切な画面」を作ったつもりだった。
しかし客先が欲しかったのは「私が考える理想の画面」ではなかった。
慣れ親しんだ標準構成であり、他設備との統一性であり、保守しやすさだったのである。
結局、そのタッチパネルは後から先輩社員が標準構成に沿って作り直したそうだ。
その頃には私は既に会社を離れていた。
後からその事実を知った私は、先輩へ謝罪の電話をした。
今となっては苦い思い出である。
■HMIは設備を説明するものではない
この経験から学んだことがある。
それは、
HMIは設備を説明するためのものではなく、使用者が判断するためのものである
ということだ。
設計者は設備の構造をよく知っている。
だから細かいアニメーションや状態表示を加えたくなる。
しかしオペレータや保全担当者が求めているのは、設備の芸術作品ではない。
今どこで異常が起きているのか。
次に何をすれば良いのか。
復旧方法は何か。
必要なのは、その判断に必要な情報である。
表示できるから表示するのではなく、必要だから表示する。
今ではそう考えている。
■今、私が意識していること
タッチパネルを作る際、まず意識するのは次の三つだ。
利用者は一つの設備だけを操作するわけではない。
同じ工場内の他設備との統一感は重要である。
標準があるなら従う。
無い場合でも、どのような構成が使いやすいかを事前にヒアリングする。
改善はしても、別物にはしない。
特に既存設備が多数存在する環境では重要だ。
■標準が無い場合
既存の標準が存在しない場合や、機能が全く異なる設備を立ち上げる場合は、できるだけ次の点を意識している。
カッコよさよりも伝わりやすさ。
これが基本だと思う。
■依頼する側になって分かったこと
一方、画面制作を依頼する立場になってからも学びがあった。
それは、
標準構成を渡すことの重要性
である。
Excelで画面レイアウトを書いて指示するだけでも効果はある。
しかし、どれだけ丁寧に指示を書いても、自分のイメージ通りになるとは限らない。
私自身も何度か経験した。
そのため最近では、可能であれば自分で画面案を作り、それをベースに依頼するようにしている。
自由度が高いほど、設計者ごとの解釈差が大きくなるからだ。
■おわりに
タッチパネルというHMIが普及したことで、私たちは昔では考えられないほど自由な表現を手に入れた。
しかし、その自由度は使いやすさを保証してくれるわけではない。
むしろ自由度が高いからこそ、
「何を表示するのか」
「何を表示しないのか」
という取捨選択が重要になる。
結局のところ、使いやすいHMIになるかどうかは、
仕様をどこまで明確にできるか。
そして設計者がその意図をどこまで理解し、適切に落とし込めるか。
そこにかかっているのだと思う。
まるで注文住宅を建てる時のようである。
自由にできることが増えるほど、良いものを作るのは難しくなる。
HMI設計もまた、同じなのだ。


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