生産ラインの改善を進めるためには、まず現場をよく観察し、課題を抽出することが重要である。
その際、多くの人は設備停止や工程内の滞留、不良発生といった「目に見える問題」を探そうとする。実際、それらは改善活動における重要な着眼点だ。
しかし、生産技術者として現場を見るときには、もう一つ意識しておきたい視点がある。
それは、
「なぜこのラインは止まらずに流れているのか?」
という視点だ。
一見すると、ラインがスムーズに流れていることは良いことであり、問題がない状態のように見える。しかし、そこに大きな落とし穴が潜んでいることがある。
■本来、現場では様々な異常が起こる
実際の生産現場では、日々様々なことが起こる。
例えば、
- 部品の傷や異常を発見する
- 設備の調子が微妙に変化する
- 工程ごとの作業時間にバラつきが出る
- 部品供給が遅れる
- 作業者が判断に迷う場面が発生する
こうした要素が複雑に絡み合いながら生産は進んでいる。
にもかかわらず、作業者が常に余裕の表情で、ラインが何事もなかったかのように流れ続けているのであれば、そこには別の理由が隠れている可能性がある。
私は経験上、本当に危険なのは、
「問題がないライン」ではなく、「問題を現場が吸収してしまっているライン」
だと思っている。
■「改善するところがない」と言われたライン
以前、改善活動のためにライン観察を行った際の話である。
そのラインには比較的複雑な組立作業が含まれていたが、不思議なほど安定していた。
監督者からは、
「このラインの作業者は仕事ができるから助かっている」
「改善するところなんてない」
と言われていた。
数字だけを見ると、確かに優秀なラインに見える。
しかし、実際に作業を観察してみると状況は違った。
部品を圧入する工程では、圧入パンチを何度も繰り返し操作して無理やり圧入している。
本来しっかり確認すべき意匠部品の傷検査も簡略化されている。
さらに、作業テーブルには標準作業には存在しない部品の置き溜めが作られていた。
つまりラインが流れていたのではない。
作業者が無理をすることで、無理やりラインを流していたのだ。
■人の頑張りが異常を隠してしまう
出来高だけを見ればラインは順調に見える。
しかし、その裏では
といったことが起きている場合がある。
この状態の怖いところは、本来であれば異常として表面化し、対策されるはずの問題が見えなくなることだ。
設備に問題があれば設備改善を行う。
作業内容に無理があれば工程設計を見直す。
品質確認が不足していれば検査方法を改善する。
本来であればそうした改善につながるはずの異常が、人の頑張りによって処理されてしまう。
そしていつか、その無理が限界を迎えたとき、重大な品質不良や生産トラブルとして表面化するのである。
■ライン観察で見るべきこと
生産技術者がラインを観察するときは、
「どこで止まっているか」
だけを見るのでは不十分だ。
例えば、
といった点も確認する必要がある。
ライン停止は異常のサインである。
しかし、人が頑張ることで異常が表面化しない状態の方が、実はもっと危険かもしれない。
生産技術者の仕事は、ラインを無理やり流し続けることではない。
異常を見える化し、誰が作業しても品質と生産性を安定して実現できる仕組みを作ることである。
だから私はライン観察をするとき、
「なぜ止まったのか」と同じくらい、「なぜ止まらないのか」を見るようにしている。
そこにこそ、本当の改善の種が隠れていることが多いからだ。
■まとめ
ライン改善というと、設備停止や工程内の滞留、不良発生といった「目に見える問題」に注目しがちである。
しかし実際には、人の頑張りや経験によって問題が吸収され、本来であれば異常として表面化するはずの課題が隠れてしまうことがある。
ラインが止まっている理由を調べることはもちろん重要だが、それと同じくらい、
「なぜこのラインは止まらずに流れているのか」
という視点を持つことが大切だ。
作業者の無理や暗黙知に依存していないか。 品質確認が省略されていないか。 標準作業が守られているか。
そうした視点で現場を見ることで、数字だけでは見えない本質的な課題が見えてくる。
生産技術者に求められるのは、現場の頑張りによって成り立つラインではなく、誰が作業しても品質と生産性を維持できる仕組みを作ることだ。
そのためにも、ライン観察では「なぜ止まったのか」だけでなく、「なぜ止まらないのか」にも目を向けたい。

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