今では工場内に立派な保全部隊があり、設備トラブルの一次対応も多くを担ってくれている。
しかし以前は、生産技術が保全業務を兼ねていた。
工場内には数多くのラインや設備が稼働しているため、内容の大小こそあれ、一日に何度も直通電話(当時はPHS)が鳴っていた。
「設備が動きません」
「いつもと違う動きをします」
「不良品ばかりになります」
そんな連絡を受けるたびに現場へ向かっていた。
私はSIer時代の経験があり、ラダー図を見ることにはそれなりに自信がある。
自分で組んだプログラムはもちろん、他人が作成した設備のラダーでも比較的短時間で解析できる方だと思う。
そのため現場に到着すると、まず制御盤やPLCの場所を探してしまう癖があった。
■制御知識は保全で強力な武器になる
実際のところ、保全業務において制御知識は非常に役立つ。
設備がある動作を行うためには、必ず何らかの条件が成立しているはずだ。
例えば、
といった条件である。
ラダープログラムを理解できれば、
「この動作が成立するために必要な条件は何か」
を論理的に追うことができる。
すると、多くの場合はそのどこかに異常の原因が見つかる。
だから私は、トラブルが起きると制御から原因を追うことが多かった。
そして実際、それで解決できるケースも少なくなかった。
■しかし強みは時として弱みにもなる
一方で、このやり方には大きな落とし穴がある。
それは何でも制御から見てしまうことだ。
もちろん真因にたどり着く確率は高い。
しかし、すべてのトラブルが高度な制御異常とは限らない。
ある時はラダーを追い、入出力を確認し、シーケンスを解析しながら原因を探った。
ようやく真因らしきものにたどり着いたと思ったその時、目と鼻の先に答えがあった。
出力先機器の電源コンセントが抜けていたのである。
また別の時には、
「設備がおかしい」
という連絡を受けて調査した結果、単純に作業者がひとつ工程を飛ばしており、ポカヨケ機能が正常に働いていただけだったこともあった。
結果として復旧まで20分、30分と掛かってしまう。
もし違う視点の人が見ていたら、
「コンセント抜けてますよ」
「作業を飛ばしているだけですね」
で数十秒で終わっていたかもしれない。
■なぜこうなってしまうのか
今振り返ると原因は単純だ。
私は制御屋だからである。
人は問題に直面した時、自分の得意分野から物事を見ようとする。
機械設計者なら機械構造を疑う。
電気担当なら配線や回路を疑う。
品質担当なら工程変化を疑う。
そして制御担当ならPLCやプログラムを疑う。
それ自体は悪いことではない。
むしろ専門性があるからこそ早く問題を解決できる場面も多い。
しかし、その専門性が強ければ強いほど、視野が特定の方向へ引っ張られてしまう。
「制御の問題かもしれない」
ではなく、
「まず制御の問題だろう」
となってしまうのである。
これは今でも完全には克服できていない。
急いでいる時や周囲から期待をかけられている時ほど、私は無意識にPLCを開いてしまう。
長年染み付いた職業病のようなものだ。
■専門性を持ちながら、全体を見る
設備は制御だけで動いているわけではない。
機械があり、電気があり、空圧があり、人の作業があり、それらが組み合わさって初めて成立している。
だからトラブル対応でも、
といった基本確認を最初に行うべきなのだろう。
遠回りに見えるが、結果としてそれが最も早いことも多い。
専門知識は大きな武器になる。
だが、その武器ばかりに頼り始めると、足元にある答えを見落としてしまう。
保全を経験して学んだのは、専門性を磨くことの大切さと同時に、
自分の専門性を疑うことの重要さだった。
今でも設備トラブルの連絡を受けると、つい制御盤へ足が向きそうになる。
そんな時こそ、一歩立ち止まって周りを見るように心掛けている。
■まとめ
保全業務において制御知識は大きな武器になる。
設備の動きを論理的に捉え、原因を絞り込む力はトラブル解決の大きな助けとなる。
しかし、その一方で人は自分の得意分野から物事を見てしまう。
機械屋は機械を疑い、電気屋は電気を疑い、制御屋は制御を疑う。
専門性は問題解決を加速させるが、ときには視野を狭める原因にもなる。実際の現場では、複雑な制御異常よりも、コンセント抜けやエア停止、作業漏れといった単純な原因が潜んでいることも少なくない。
だからこそ、専門知識を活かしながらも、まずは設備全体を俯瞰して見ることが大切だ。
自分の強みを信じることと、自分の思い込みを疑うこと。
この二つのバランスこそが、保全やトラブル対応において本当に重要なのだと思う。
私自身、今でも設備トラブルの連絡を受けると真っ先にPLCを開きたくなる。
それでも、
「足元に答えが落ちていないか」
を一度確認してから動く。そんな習慣をこれからも意識していきたい。


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